こんにちは、Doctor's Fitnessの宮脇大です。
「先生、最近ペットボトルの蓋が開けにくくて・・」
「椅子から立ち上がるとき、つい『よっこいしょ』って言うようになりました」
外来でこういうお話を聞くと、私はちょっと真剣な顔になります。なぜかというと、これはサルコペニアという状態のサインかもしれないからなんですね。
「サルコペニア」って言葉、ご存じですか??最近ニュースやテレビでも取り上げられるようになりましたが、まだまだ「初めて聞いた」という方も多いと思います。
今日は「サルコペニアと運動」というテーマで、加齢で失われていく筋肉を取り戻すための運動療法についてお話ししてみますね。
結論から言うと、サルコペニアは「年齢のせい」と諦めずに、適切な運動で改善できる状態です。 大事なのは、早めに気づいて、続けられる運動を始めることなんです。
サルコペニアってなんですか?
サルコペニアは、ギリシャ語の「sarx(筋肉)」と「penia(喪失)」を組み合わせた言葉で、加齢による筋肉量の減少と筋力低下を意味します。
ざっくり言うと、年齢とともに筋肉がやせて、力も弱くなっていく状態のこと。日本サルコペニア・フレイル学会の定義では、筋肉量・筋力・身体機能のうち、複数が低下している場合にサルコペニアと判定されます。
具体的なサインとしては、こんなものがあります。
- ペットボトルの蓋が開けにくくなった
- 椅子から立ち上がるのがつらい
- 歩く速度が落ちてきた
- 横断歩道を青信号のうちに渡りきれない
- 手すりがないと階段の上り下りが不安
「年だから仕方ない」と思いがちなんですが、実はこれらは運動で改善できる症状なんですよね。
なぜ筋肉は減っていくのか
筋肉は、25歳前後をピークに少しずつ減り始めます。何もしないでいると、40歳以降は10年で約8%ずつ筋肉量が減っていくと言われています。70歳を超えるとそのペースはさらに加速し、太ももの筋肉では年に1〜2%程度減るというデータもあります。
その背景には、いくつかの要因が重なっています。
- 運動量の減少(仕事や家事の活動量が落ちる)
- たんぱく質の摂取不足(食が細くなる、味の好みが変わる)
- ホルモン環境の変化(性ホルモンや成長ホルモンの低下)
- 慢性疾患(糖尿病・心不全・腎臓病などは筋肉を減らしやすい)
- 炎症・低栄養
つまりサルコペニアは、単なる老化現象というよりも、生活習慣と疾患のつみ重ねが筋肉に表れた結果と言えるんですね。
だからこそ、生活習慣を整え、運動を加えることで、進行を遅らせたり、ある程度取り戻したりすることが期待できます。
放っておくとどうなる?
サルコペニアを放置すると、いろいろなリスクが連鎖していきます。
まず、転倒・骨折が起きやすくなります。下肢の筋力が落ちると、ちょっとした段差でつまずいたり、バランスを崩したりしやすくなるんですね。高齢の方の場合、転倒からの大腿骨骨折はそのまま寝たきりに繋がることも少なくありません。
次に、フレイル(虚弱)という、心身の活力が全般的に低下した状態に進行しやすくなります。フレイルは「健康」と「要介護」の中間の段階で、ここで適切に介入できるかどうかが、その後の自立度を大きく左右します。
さらに、サルコペニアがあると糖尿病や心臓病、認知症のリスクも高まるという研究報告も増えてきています。筋肉はただの「動く器官」ではなくて、糖や脂質を取り込み、ホルモンを分泌する大事な臓器でもあるんです。
「ただ筋肉が減っただけ」と侮れない理由が、ここにあります。
サルコペニア対策のカギは「レジスタンス運動+たんぱく質」
では、どうすれば筋肉を取り戻せるのか。
国内外のガイドラインで共通している答えは、レジスタンス運動(筋トレ)+十分なたんぱく質摂取です。
レジスタンス運動の基本
筋肉を増やす・維持するためには、有酸素運動だけでは不十分で、筋肉に負荷をかける運動が必要です。
サルコペニア対策として推奨される運動の目安はこんな感じです。
- 頻度:週2〜3回
- 強度:「ややきつい」と感じる程度
- 種目:下半身(スクワット・椅子立ち上がり)、体幹、上半身をバランスよく
- 1回あたり:20〜40分程度
「筋トレ」と聞くとジムでバーベルを担ぐイメージかもしれませんが、自分の体重を使った運動(自重トレーニング)でも十分効果があります。椅子からの立ち上がり運動、つま先立ち、壁腕立て伏せ、片足立ちなど、自宅でできるものから始めてOKです。
有酸素運動も組み合わせる
レジスタンス運動だけでなく、ウォーキングなどの有酸素運動も組み合わせると、心肺機能・血管機能の維持にも繋がります。1日20〜30分の早歩きを目標に、無理のない範囲で続けてみてください。
たんぱく質を意識して摂る
運動と並んで重要なのが食事です。高齢の方は体重1kgあたり1.0〜1.2gのたんぱく質摂取が推奨されています。体重60kgの方なら、1日60〜72g。意外と多いんですよね。
肉・魚・卵・大豆製品・乳製品を、3食に分けて少しずつ摂るのがコツです。1食だけでドカ食いするより、毎食コツコツの方が筋肉合成には有利だとされています。
なお、腎臓病など持病がある方は、たんぱく質量に上限が設けられていることもあります。自己判断せず、必ず主治医に相談してくださいね。
「無理をしない」と「やらなさすぎ」の間を狙う
サルコペニア対策で一番難しいのが、強度の調整です。
「無理をしない」のは大事ですが、刺激が足りないと筋肉は反応しません。逆に張り切りすぎると、関節を痛めたり、心臓に負担がかかったりして、続けられなくなります。
特に持病をお持ちの方の場合、自己流の運動は思わぬリスクを伴うことがあります。たとえば高血圧の方が急に重い筋トレを始めると、運動中の血圧が大きく上がってしまうことがありますし、糖尿病の方では低血糖を起こす場合もあります。
だからこそ、「医師が運動の可否と強度を判断する → 専門スタッフが伴走する」という流れが大事になってくるんですよね。これがまさに運動処方箋の出番です。
Doctor's Fitness でのサルコペニア対応
Doctor's Fitnessでは、サルコペニアやその前段階(プレフレイル)の方に対して、運動処方箋の発行をお手伝いしています。
具体的な流れはこんな形です。
- LINE無料相談で、現在の症状・既往歴・服薬状況をお聞きする
- オンライン医師面談で、運動可能な範囲を判断(必要に応じて主治医との連携)
- 運動処方箋発行(種目・強度・頻度・避けるべき動作を具体的に記載)
- DF連携 指定運動療法施設またはDF連携 メディカルフィットネスで、処方に基づいて運動を継続
特に、理学療法士や健康運動指導士が常駐する施設は、サルコペニア対策の運動療法と相性が抜群です。関節への負荷を見ながら、その日の体調に合わせて微調整してもらえる環境は、自宅トレーニングではなかなか得られないんですよね。
なお、指定運動療法施設で運動処方箋に基づいて運動した場合は、医療費控除の対象となります。継続のコスト面での後押しにもなりますので、ぜひ活用していただきたい制度です(DF連携メディカルフィットネスは医療費控除の対象外ですが、医療連携の手厚さが強みです)。
「いまから」始めても、遅すぎることはない
サルコペニア対策の運動について、よく聞かれるのが「もう70歳を超えてるんですけど、いまから始めて意味ありますか?」という質問です。
答えは、意味があります。むしろ、何歳から始めても筋肉は反応してくれるということが、たくさんの研究でわかっています。
80代・90代の方を対象にした研究でも、適切なレジスタンス運動を続けると筋力・歩行速度・バランス能力が改善することが報告されています。もちろん20代と同じペースで増える、というわけではないですが、「衰えていく速度を緩める」「失った機能を取り戻す」ということは、十分可能なんですね。
「もう年だから」と諦めて運動量を減らすことが、結果としてサルコペニアを加速させてしまいます。だからこそ、気づいたいまが始めどきです。
50代から運動を始めたい方は、50代から始める運動処方箋 ―― 体力と相談しながら続ける運動もあわせてご覧ください。
それでは、また!次回は「ロコモティブシンドロームと運動 ―― 動ける体を維持する運動処方」についてお話ししてみますね。