「血圧が高めですね、運動してみましょうか」「血糖値、薬と並行して運動で下げていきましょう」――。健康診断の結果やかかりつけ医の診察で、こんな言葉をかけられたことはないでしょうか。けれど、いざ運動を始めようとすると、何から手をつけていいか分からない。そんな方のために生まれたのが「運動処方箋」という仕組みです。
運動処方箋とは、文字通り「運動」を医師が「処方」する仕組みです。薬を処方箋にもとづいて服用するのと同じように、医師の指導のもとで適切な強度・時間・頻度の運動を実施することで、生活習慣病の改善や健康維持を目指します。さらに、一定の条件を満たす施設で行えば、その費用が医療費控除の対象になるという、知る人ぞ知る制度でもあります。
運動処方箋という考え方
運動処方箋は、英語では Exercise Prescription と呼ばれ、運動生理学やリハビリテーション医学の分野で確立された概念です。患者さんの年齢、現在の体力、持病、服用中の薬、生活背景などを総合的に評価したうえで、医師が個別に運動メニューを設計します。
処方箋には通常、以下のような要素が記載されます。
- 運動の種類:有酸素運動(ウォーキング、水泳など)、レジスタンス運動(筋トレ)、柔軟性運動(ストレッチ)など
- 強度:最大心拍数の何%に相当するか、自覚的運動強度(RPE)でいうと「ややきつい」程度かなど
- 時間:1回あたり20分、30分、60分など
- 頻度:週3回、週5回など
- 期間:3ヶ月、6ヶ月などの目標期間
「とりあえず歩く」「なんとなくジムに通う」というレベルではなく、その方の状態に応じて科学的に最適化された運動メニューを医師が処方する。これが運動処方箋の核心です。
なぜ「処方箋」という形にする必要があるのか
運動が健康に良いことは誰もが知っています。それでもわざわざ医師の処方が必要なのは、運動には次のような側面があるからです。
持病がある場合、不適切な運動は逆効果になりうる
たとえば、コントロール不良の高血圧の方が急激な高強度運動を行うと、血圧が極端に上昇して脳血管障害などのリスクを高めます。糖尿病で網膜症がある方には、いきみを伴う激しい筋力トレーニングは網膜出血のリスクとなります。整形外科疾患を抱えている方には、関節への負荷を考慮したメニュー設計が欠かせません。
「運動した方がいい」は確かに正しいのですが、「どんな運動を、どれくらいの強度で、どのくらい行うか」を間違えると、症状を悪化させることもあるのです。
続けるためには「個別最適化」が必要
運動が三日坊主に終わる最大の理由は、「自分に合っていない」ことです。きつすぎても続かない、楽すぎても効果が出ない。年齢・体力・生活パターン・好みに合った運動を選ばなければ、習慣化はほぼ不可能です。医師の処方は、この個別最適化を支える土台になります。
医療費控除という「もう一つの恩恵」
運動処方箋のもう一つの大きな価値が、税制上のメリットです。厚生労働大臣の認定を受けた指定運動療法施設で、医師の運動処方箋にもとづいて運動を行った場合、その費用は医療費控除の対象になりえます。
世帯の年間医療費が10万円(または所得の5%のいずれか低い方)を超えた場合、超過分が所得から控除され、所得税・住民税が軽減される制度です。ジムの会費を医療費に加算できれば、控除対象を超えやすくなり、税の軽減につながります。
すべてのフィットネスジムが対象になるわけではない点には注意が必要です。「指定運動療法施設」は厚生労働省の認定基準を満たした施設だけが名乗ることができ、現在全国に約300施設あります。
Doctor's Fitnessが提供する運動処方箋
Doctor's Fitnessは、運動処方箋の発行と、指定運動療法施設・連携メディカルフィットネス施設のネットワークを組み合わせ、「医療と運動を地続きにする」ことを目指すサービスです。
- 提携医療機関の医師が、健診結果や生活背景を踏まえて運動処方箋を発行
- お住まいの近くの指定運動療法施設、または医療連携の手厚いメディカルフィットネス施設をご紹介
- 処方箋に基づくメニュー設計と、継続のためのフォロー
「運動した方がいい」と分かっていても踏み出せなかった方、自己流の運動に不安を感じる方、持病を抱えながら運動を続けたい方。運動処方箋は、そうした方々の続けられる運動への入り口になります。
次回以降の記事では、高血圧・糖尿病・脂質異常症など個別の疾患と運動の関係、医療費控除の具体的な申告方法、施設選びのポイントなどをさらに詳しく解説していきます。気になるトピックから、ぜひ読み進めてみてください。